cats.data.ContT を試してみた
Scala Advent Calendar 2018 - 24日目の記事です。
ついに12月でアドカレ始まったかーと思ってたらもうクリスマスイブで自分の番ですよ。早いですね。 今年のブログ更新もどうせこれが最初で最後でしょう。また来年頑張ります...
さて、今回は一ヶ月ほど前に master に入り、v1.5.0-RC1 から使えるようになった cats.data.ContT について少し試した感想を。
ちなみに、継続モナドについては丁度7日に @kazzna さんがContの合成がしたいというタイトルで 公開されていたので、そちらもどうぞ。ContT はそんな継続モナドのモナドトランスフォーマー版です。
ついに Cats にも ContT が
Scala においても継続モナドは実用的なツールの一つです。 自分の観測範囲では例えば、 ActionCont で有名な pab_tech さんの qiita.com jwhaco さんの qiita.com しもむらさんの labs.septeni.co.jp
などなど。特に ActionCont には公私ともにお世話になってたり。
さて「ついに Cats にも〜」って書き出しからもお分かりの通り、Scalaz には結構昔からありました。 ただ、ここ最近に至っては*1 doobie や Monix が内部実装を Scalaz から Cats へ移行するなどしてしまったため、 Web サービスやらなんやらの実用的なアプリケーションを作ろうとした際に、Cats を使って実装されたライブラリとの組み合わせが悪くなってしまったのでした。
そんな状況だったので、各々そもそも使うのを諦めたり、適当に自前実装したり、 はたまた Scalaz の実装コピって置換しただけみたいなライブラリが登場したり*2といった感じの状況だったのが、 ようやく解消されたのかなーといった感じでやったー!みたいな気持ち、のはずでした。
cats.data.ContT を試してみる
以降、登場するサンプルコードは
- Scala: 2.12.8
- Scalaz: 7.2.27
- Cats: 1.5.0
- sbt: 1.2.7
でsbt console
で REPL 起動しています。
では早速、さくっと Option モナドに積んで試してみましょう。なんら意味のないコードですが。 まずは比較の為に Scalaz から。
scala> import scalaz.ContT import scalaz.ContT scala> def cont(s: String): ContT[Option, Int, String] = ContT(f => f(s)) cont: (s: String)scalaz.ContT[Option,Int,String] scala> val c = for { | a <- cont("12") | b <- cont(a + "24") | } yield b c: scalaz.IndexedContsT[scalaz.Id.Id,Option,Int,Int,String] = IndexedContsT(scalaz.IndexedContsT$$Lambda$4064/1553542174@5aeb00bd) scala> c.run(s => util.Try(s.toInt).toOption) res0: Option[Int] = Some(1224)
いいかんじですね。さて、今度は Cats で同じことをやってみます。
scala> import cats.data.ContT import cats.data.ContT scala> def cont(s: String): ContT[Option, Int, String] = ContT(f => f(s)) cont: (s: String)cats.data.ContT[Option,Int,String] scala> val c = for { | a <- cont("12") | b <- cont(a + "24") | } yield b <console>:15: error: could not find implicit value for parameter M: cats.Defer[Option] b <- cont(a + "24") ^ <console>:14: error: could not find implicit value for parameter M: cats.Defer[Option] a <- cont("12") ^
おやおや、Cats の方は失敗しました。なんか暗黙の値が無いよって怒られてますね。
合成するには Defer 型クラスのインスタンスが必要
さて、エラー内容を頼りに ContT の実装を見てみると、 map/flatMap を実行する為には M[_] が Defer 型クラスのインスタンスであることが求められています。
sealed abstract class ContT[M[_], A, +B] extends Serializable { final def run: (B => M[A]) => M[A] = runAndThen protected def runAndThen: AndThen[B => M[A], M[A]] final def map[C](fn: B => C)(implicit M: Defer[M]): ContT[M, A, C] = { // ... } // ... final def flatMap[C](fn: B => ContT[M, A, C])(implicit M: Defer[M]): ContT[M, A, C] = { // ... } }
Defer 型クラスは非常にシンプルで、F[_] の生成の際に中身の生成を遅らせられることを要求します。
trait Defer[F[_]] extends Serializable { def defer[A](fa: => F[A]): F[A] }
適当に確認する限り、この Defer 型クラスのインスタンスは馴染みのあるところで
- cats.Eval[A]
- cats.Free[S[_], A]
- cats.effect.IO[A]
- monix.eva.Task[A]
また、F[_] が Defer のインスタンスに限り、下記もインスタンスになります。
- cats.data.EitherT[F[_], A, B]
- cats.data.OptionT[F[_], A]
- cats.data.IndexedStateT[F[_], SA, SB, A]
- cats.data.Kleisli[F[_], A, B]
といった具合で、サンプルコードの(標準ライブラリの)Option に対しては定義されておらず、 裏を返せばこれ以外には ContT を積めない(積めるけど合成できない)ということになります。えぇ...
ちなみに Defer が必要な理由として、Cats の場合は Monad のインスタンスを定義する際に、 stack-safe であることが要求*3されるので、それの実現の為なはずなんですが、 そのあたりはまた別の記事で。*4
cats.Cont はどこ?
Scalaz v7.2.27*5 の Cont は
type Cont[R, A] = ContT[Id, R, A] object Cont extends IndexedContsTInstances with IndexedContsTFunctions { def apply[R, A](f: (A => R) => R): Cont[R, A] = IndexedContsT[Id, Id, R, R, A](f) }
のように定義されていて、これは (ContT に限らず) Id モナドに積んでやれば元の(?)シンプルな定義を得られるといった具合です。 ところが cats.ContT でやろうとすると、cats.Id に対する Defer 型クラスのインスタンスが存在しない*6ため、定義そのものはできるものの map/flatMap が使えず、for 式での合成ができません。
scala> type Cont[R, A] = ContT[Id, R, A] defined type alias Cont scala> ContT.pure[Id, String, Int](100) res0: cats.data.ContT[cats.Id,String,Int] = FromFn(AndThen$1198828579) scala> res0.map(_.toDouble) <console>:22: error: could not find implicit value for parameter M: cats.Defer[cats.Id] res0.map(_.toDouble) ^
一応、Defer 型クラスのインスタンスでもある cats.Eval を使うことで回避することが可能ですが、果たして。。*7
scala> ContT.pure[Eval, String, Int](100) res2: cats.data.ContT[cats.Eval,String,Int] = FromFn(AndThen$1654564972) scala> res2.map(_.toDouble) res3: cats.data.ContT[cats.Eval,String,Double] = FromFn(AndThen$627616169)
ってな具合で、使う場合はどこでもまずはモナドトランスフォーマー版から始めなきゃいけないのも手間ですね。
まとめ
使いにくいなーと思う箇所はあれど、実際は Monix の Task に積んだり、Eval でも問題なかったりで、実用上はそこまで困らない(はず)って印象です。 何はともあれ "Cats でも継続モナドが使えるようになった" という事実は大きいので、これからじゃんじゃん使い倒していくぞという気持ちです。ありがとうございます。
良いお年を
*1:といっても、数年前ですが...
*2:さすがにどうなんだ...
*3:tailRecM もそうだけど、中の人の方針的にも?
*4:そもそも Monad の制約に tailRecM を強制するのがやっぱり良くないのではって気がしなくもない
*5:https://github.com/scalaz/scalaz/blob/v7.2.27/core/src/main/scala/scalaz/package.scala#L320-L323
*6:ちゃんと調べられておらず、理論的に実装不可か、それとも頑張れば定義できるがまだ入っていないだけなのかは不明なので「現時点の実装ではできない」という事実のみ。それ以外の意味はありません。
*7:cats.Eval は評価を制御できるようにするデータ型で、モナドです。Id モナドとは別物ですが、一番シンプルで近いデータ型のはず...